2019/08/20

アルコール依存症者は就労できないの?|就労の「今」と体験談

就労支援

「旦那がアルコール依存で会社をクビになって。もう社会復帰はできませんか?」

「息子がアルコール依存症になって、会社を欠勤しています。もう働くことはできないのでしょうか?」

依存症当事者の家族のあなたはこうお悩みかもしれません。

平成30年4月1日から、国では「障害者が地域の一員として共に暮らし、共に働く」ことを目的に、障害者義務枠に精神障害も加わりました。

アルコール依存症もこの対象となります。

この法律のおかげで、アルコール依存症等の依存症を抱えた人が就労する可能性が広がりました。

この記事では依存症当事者の家族、そして支援者に向けて書いています。

依存症の方の就労の現状と体験談をお伝えしながら、当事者が社会復帰するために必要なことをお伝えします。

目次

1. アルコール依存症と精神障害者雇用義務化

アルコール依存症とは、「アルコールの摂取や飲酒を自分の意志ではコントロールできない精神疾患」を指します。

アルコール依存症になると、飲酒が止められなくなり、会社に行くことができずクビになるといったケースもよく聞かれます。

その症状が原因で、就労や生活の破綻につながる可能性があるのです。

しかし、アルコール依存症になった後でも、適切に第三者のサポートを受けた場合、十分に社会復帰は可能です。

就労・再就職していたり、あるいは勤めていた会社に復帰するといったケースも存在します。

また近年、「精神障害者雇用義務化」と呼ばれる法律ができたことも、依存症者の就労にとって追い風となっています。

ここで精神障害者雇用義務化について簡単にご説明します。

障害者を雇用する法律として、2018年以前から障害者雇用促進法という法律がありました。

こちらは、50人以上の企業は、雇用すべき従業員に占める障害者の割合は2%以上とする法律です。

しかし、その算定基準(2%)には身体障害者と知的障害者しか含まれておらず、精神障害者を雇用した企業は、身体障害者や知的障害者を雇用したとみなし雇用率の算定基準に加算することが可能でした。

それに対して、今回の精神障害者雇用義務化は、「必ず企業は精神障害者を雇わなければならない」という決まりはないです。

今回から雇用すべき障害者の中身に、身体障害者、知的障害者だけでなく、精神障害者も加わることになりました。

「精神障害者の雇用」が正式に障害者雇用制度の中で位置づけられたのです。

法改正のおかげで、今までスポットが当たりにくかった精神障害者の就労の可能性が出てきました。

実際に企業でも、うつ病や気分障害等の精神障害を持つ方の就労について、耳にすることも増えてきました。

2. アルコール依存症と就労の現実

実際に事例を交えながら、アルコール依存症の方における就労の現実についてお伝えします。

【事例】
アルコール依存症とうつ病を持つ、40代男性Aさん

※今回の事例に登場するAさんは、個人が特定できないよう、内容に支障が出ない範囲で内容を一部改変しています。

Aさんは、ある福祉事業所で支援員として働いていました。

もともと気立ての優しい人で感受性の強い性格が相まって、Aさんは「利用者から」も「利用者の家族から」も信頼のあつかったのです。

しかし、支援員として働く中で、周囲に気を使いすぎてしまう部分や、趣味がなく、終業後も仕事の事ばかり考えてしまいがちでした。

そしてもともとAさんは機能不全家族で育ったことから自己肯定感が低く、「自分は誰かの役に、社会の役に立たなければ生きている意味がない」と次第に思いつめてしまいました。

会社の飲み会や友達との付き合いの飲み会でお酒を飲むことがあり、「お酒を飲めば嫌なことが忘れられる...」と気が付きました。

次第に1人でもお酒を飲むようになり、どんどんとお酒の量が増えていきました。

お酒の量が増えていくごとに、多量にお酒を飲まなければ、気持ちが落ち着かなくなり、次第にアルコール摂取なしにはいられなくなってしまいました。

次第にお酒のせいで会社に行けなくなってしまい、クビになってしまいました。

Aさんは「仕事をクビになった時は、絶望しかなくて、自分はなんてダメなんだろう…って感じました」と振り返っています。

そして自己嫌悪を消すために、飲酒をすることを繰り返して、お酒をやめるきっかけを持つことができませんでした。

お酒をやめようと思ったきっかけは、Aさんの家族の思いや、以前働いている利用者さんや家族からの手紙でした。

「自分を必要としてくれる人がいる」と感じたこと。

「この状態でも心配してくれる人がいる」と知ったこと。

これらが重なり、Aさんはやっと自分は「よくなりたい」心から感じたそうです。

Aさんは家族に連れられて病院を受診し、入院治療を行います。

アルコール依存症だけでなく、アルコール依存症に併発してうつ病も患っていたので薬物治療等や認知行動療法も合わせて行いました。

またカウンセリングを受ける中で、「自分は自分のままでも良いところがあるのかもしれない」と自己を肯定できたそうです。

入院治療が終了したあと、病院のデイケアに通い始め少しずつ生活のリズムを整えていきます。

デイケアに通う中で訓練等を受け、成功体験を積む中で「自分は少しずつやれるかもしれない」という希望を持てたといいます。

デイケアに通いながら就労移行支援等を利用し、アルコール依存症とうつ病という精神疾患を持っていることをオープンにしたうえで就労することができました。

現在Aさんは以前働いていた仕事とは違う事務の仕事をしています。

しかし、事務の仕事であっても、複数の人間と一緒に仕事をすることもあるため、細やかな気遣いがある方が周囲の人は仕事がやりやすいのです。

Aさんの細やかな気遣いのできる部分や誠実な人柄は現在の仕事にも生かせているように感じます。

3. アルコール依存症当事者の家族や支援者ができること

最後に「依存症当事者の家族」や「支援者」が当事者に対してできることをお伝えします。

家族に向けて

①依存症当事者の伴走者をみつけるお手伝いをする

依存症当事者の方が何らかのきっかけで「働きたい」と思えることは非常に尊いことです。

精神疾患を持ちながらも何とか自分の病気と折り合いをつけながら前に進もうとしている気持ちを持てるのは、様々な試練を乗り越えてきたからだと思います。

そして依存症当事者の家族のあなたは、当事者の「心の支え」となり、当事者を支えてきたのだと感じています。

何より、当事者を思ってくれる人がいることは、依存症当事者を孤独にしないことにもつながり、当事者が希望を持てることと思います。

そして、当事者を思ってくれる人は多ければ多いほど当事者は「自分を社会は、あんがい受け入れてくれるのだ」と感じられるかもしれません。

そのため、当事者を支えてくれる支援者やカウンセラー・医師等につなげるようなサポートをすると良いかもしれません。

具体的には、家族自身が就労移行支援事業所や作業所等に見学に行き、支援者等と対話をすることで、双方の信頼関係を醸成し、当事者をあたたかく見守れる環境を作るお手伝いができるかもしれません。

②家庭を安心安全の空間にする

就職に向けて活動していても、どうしてもうまくいかないこと、苦しいことがたくさんあるかもしれません。

そのたびに当事者は傷つき、いら立ち、悲しみを抱えているかもしれません。

その際、就職できるかできないかはおいておいて、まずは、「当事者は当事者のままで素敵な存在だ」というスタンスで関われると良いと思います。

結果に関わらず変わらずに見守り続けてくれる存在がいるだけで当事者は安心すると思います。

とはいえ、依存症当事者の家族も、当事者の就労等に悩むこともあると思います。

その際は1人で悩まず第三者を頼ってください。

ヒューマンアルバでも無料相談を実施しています。

支援者に向けて

①ストレングスをみつける

依存症当事者の方が就労移行支援や作業所を利用して就職するケースは少しずつ増えてきているように感じます。

就職という節目を考え「当事者が今できていないことが、訓練をとおしてできるようになることで、少しでも当事者の就職の選択肢を増やしたい」と考える支援者も多いと思います。

しかし、人には誰しも強み(ストレングス)があると思います。

そして、依存症当事者の方自身が自分のストレングスを見つけれることで、「自分もいいところがあるのかもしれない」、「就職何とかなるかもしれない」と自分や将来に希望を持てるかもしれません。

支援者は当事者のストレングスを少しでも見つけられるよう、心掛けてみると良いかもしれません。

②情報を得る

精神障害者に対する障害者雇用の現場のニーズは「精神障害者雇用義務化」などの法律ができたこと等もあり、少しずつ変化してきています。

1年前には、障害者雇用をしていない企業でも、今年は精神障害者を採用するケースなども報告されています。

新しい情報を得ることで、当事者に沢山の選択肢を伝えることができます。

沢山の選択肢を伝えられることで、「自分を受け入れてくれるかもしれない会社はこんなにあるのか」と当事者が希望を持てる可能性があります。

支援者は当事者のことを思い、現場で支援するだけでなく常に新しい情報が得られるように勉強する必要があります。

4. まとめ

ここまでお読みいただきありがとうございます。

最後に今回の内容をまとめながら振り返りたいと思います。

  • ①「精神障害者雇用義務化」などの法律が整備されたことで、依存症者の就労選択肢が広がる可能性があります。
  • ②依存症当事者の家族は、当事者に対して「伴走者を見つける手助けをする」「家庭を安心安全の空間にする」などのサポートができるでしょう。
  • ③支援者は、当事者に対して「ストレングスをみつける」「情報を得る」などができるでしょう。

アルコール依存症者の方が就労することを通して、「自分は社会とつながれる」という感覚が得られ、将来に希望を持ち、断酒しつづける支えになったいう話を聞いたことがあります。

依存症から回復では、当事者の「これから」を考えた支援も必要なのかもしれません。

私たちは当事者の方々の将来も見据え、1人ひとりに寄り添いながらサポートしています。

依存症回復に向けた無料相談も実施しています。

お気軽にご相談下さい。

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ヒューマンアルバでは、定期的に『家族会を開催しております。

依存症者を回復につなげるためには、まずご家族が対応を変えていく必要があります。

・つらい思いを吐き出す場として

・状況を変えていく学びの場として

ぜひ、ご活用ください。 (お申し込みはこちらから)

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参考:

・里中高志『精神障害者枠で働く―雇用のカギ・就労のコツ・支援のツボ』(2014)中央法規出版

・障害者雇用義務の対象に精神障害者が加わりました - 厚生労働省
・松本俊彦『臨床心理学増刊第8号―やさしいみんなのアディクション』(2016)金剛出版

・一般社団法人精神科看護協会(2017)精神科ナースのアセスメント&プランニングbooks アディクション・パーソナリティ障害の看護ケア 中央法規出版

・リカバリハウスいちご(2016)新しい今日を生きる人びと―依存症からリカバリーへ地域福祉の方法と実践 NPOいちごの会